防衛省は、北朝鮮などの弾道ミサイルの脅威が高まっていることを受け、新たな迎撃ミサイルシステムを開発する検討に入った。陸上自衛隊の03式中距離地対空誘導弾(中SAM)を改修し、弾道ミサイル迎撃能力を付与する研究を来年から始める。北朝鮮が開発している変則軌道で飛来する新型ミサイルなどに対応する性能を目指す。
複数の政府関係者が12月28日、明らかにした。完成すれば、海上自衛隊のイージス艦が発射する迎撃ミサイルSM3、航空自衛隊の地対空誘導弾パトリオット(PAC3)に続く“第3”の迎撃システムとなり、防空体制が強化される。
中SAMは国産のミサイルシステムで、100キロメートル未満とされる射程を大幅に延伸した改良版が来年末から順次、陸自部隊に配備される。敵の戦闘機や巡航ミサイルを撃ち落とせるが、弾道ミサイルには対応しておらず、防衛省は弾道ミサイルを着弾間際に迎撃できるよう中SAM改良版の改修を進める。
具体的には、誘導弾(ミサイル本体)や射撃管制装置を改修し、敵の弾道ミサイルの軌道予測能力を高度化させることで、新型を含む弾道ミサイルへの対応を可能とする技術検証に着手する。迎撃範囲が数十キロメートルにとどまるPAC3に生じる隙間をカバーする役目も担わせる。開発期間は3年程度と見込まれる。
迎撃対象に想定するのは、北朝鮮がロシア製「イスカンデル」を基に今年開発した変則軌道の短距離弾道ミサイルだ。低空で飛来し、着弾前に再上昇するなど従来型と異なる複雑な軌道を描く。既存のSM3は高高度を標的とするため迎撃できず、PAC3も変則軌道への対応が難しいため、国防上の大きな懸念になっていた。
中国やロシアは「極超音速滑空ミサイル」を開発している。極超音速(マッハ5以上)で飛来し、軌道も複雑で、現在のミサイル防衛網の突破も可能とされる。このため中SAM改良版をベースに、敵ミサイルを捕捉するレーダーの高出力化など、さらなる高度な開発を7年程度かけて行う構想もある。
政府は北朝鮮による弾道ミサイル技術の急速高度化を「新たな脅威」と位置づけ、「総合ミサイル防空能力を高めていく」(河野太郎防衛相)と強調している。
ミサイルの攻撃と迎撃の技術は高度化を競う「いたちごっこ」になりやすい。このため「目」の機能の強化も重要で、米国などは小型無人機で敵の発射地点近くに到達し、発射の兆候を探知する技術を研究している。
多くの人工衛星を協働させ、敵のミサイル発射を高い精度で探知・追尾するシステムの構築を米国などとも協力して急ぐ必要がある。
筆者:田中一世(産経新聞政治部)